断酒18年目の正月を迎えて
88会報 (00.01.01)
断酒18年目の正月を迎えて
堀 俊明
断酒生活も18年が過ぎました。何となく過ぎたような気もいたしますが、振り返れば良くも断酒を継続する事が出来たものだと思います。
断酒継続の秘訣は何かと言われれば、一日断酒の継続だろうと思います。断酒一日の人も断酒19年になろうとする者も一日断酒が原則であろうことにはかわりがありません。つまり、アルコールに対しては断酒18年の者も1日の人も全く無力であることには変わりがないのです。ただ断酒を継続できている者は、アルコールに対する接し方が上手になった人と言えるのではないかと思います。
私はアルコールを飲まなくなって19年近くになります。しかし、夢の中では今でもアルコールを求めています。アルコールを飲むか飲まざるかを夢の中で悩んでいるのです。夜中に夢の中で飲酒して飛び起き、家内にアルコールを飲んでいないことを確認したこともあります。
意識不明になって救急車で運ばれ、病室で意識を回復したときにはまた飲んでしまったと勘違いしたこともありました。病院のコンクリートの天上を見上げたときに飲んで入院していたころの記憶が甦ったのです。
この様にアルコール依存症は現在の医学では治らない病気です。しかし、気の持ち方次第では、アルコールがない世界の中で生きていくことが出来ます。私は33歳になるまでアルコールがない世界を考えることが出来ませんでした。その私が今はアルコールのない世界を楽しく生きています。
今は、瀬戸キリスト教会の牧師として働いています。聖職者として人から先生と言われる世界を生きているのです。牧師としてアルコールには無力であることを知ったこと自体が大きな経験でした。そしてそれらから離れた世界があることを知ることが出来たのも牧師として大きなプラスであったと思います。
一人の人間として自らの弱さを知ったことは、私の人生を大きく変えました。一人の人間として弱さの中に生きることが、実は弱さが強さへと変えられる事を知ったのです。 アルコール依存者は確かに周囲の人々に大きな迷惑を掛けてきたでしょう。多くの人々を傷つけてきたでしょう。とくに家族には筆舌では語り尽くせない悲しみを与えたでしょう。
しかし、アルコールの支配する世界を知ったことは決してマイナスではないと思います。この世に自分の力で乗り切ることの出来ない世界を知ることが出来たことは、これからの人生にとって決してマイナスではないと思います。
人間は自分だけの世界では生きていくことが出来ないのです。自分を取り巻く世界を受け入れることから人生が始まるのです。アルコール依存症になったことはこの世の不条理です。しかし、その不条理の向こうに新しい世界が開かれているのです。その新しく開かれた世界に向かって新しい人生を歩み出しましょう。
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